pinterest

2024年5月22日水曜日

書評:長州奇兵隊: 勝者のなかの敗者たち 一坂 太郎 (著)

 高杉晋作がつくった奇兵隊をはじめとする長州藩の諸隊は、藩内の政争に勝って討幕への動きの大きな起点となったが、そこには武士以外の庶民階級も多数参加している。長州藩の尊王攘夷活動には民衆ぐるみの高揚感があったということはいえるのだろう。その一方で民衆の側、上士の側双方に多大な犠牲もあったわけで、本書はその両面に目を向けている。

その民衆のエネルギーの元をたどれば、天保年間に長州藩各地にひろがる「天保の大一揆」があった。その藩の内側に向けられたエネルギーを今度は外敵に向けて尊王攘夷の戦いに利用したという側面もある。

そして、尊王攘夷思想をとるいわゆる「正義派」と、幕府を支持するいわゆる「俗論派」との闘いにおいては、肉親どうしが敵味方に分かれて戦ったケースがかなりあるという。

「正義派」の井上聞多(馨)を襲った刺客には井上の従弟、高杉晋作の親戚がいた。また、「俗論派」の要人の一人諫早巳次郎と高杉晋作は、母親同士が姉妹という従兄弟関係だということだ。

「俗論派」の戦死者は、維新後、故郷の招魂社や靖国神社に合祀されることはなかった。

尊王攘夷派の公家、中山忠光の暗殺、奇兵隊の三代目総督、赤禰 武人の失脚、処刑といった尊王攘夷派内の「内ゲバ」にも焦点があてられている。


幕末から明治維新の時代というのはほんの数世代前のことだけに、生々しさを感じる。その生々しい「本物の歴史」を残したいというのが本書の「志」だ。




0 件のコメント:

コメントを投稿