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2014年8月12日火曜日

研ぎ澄まされた即興演奏の楽しみ

キース・ジャレットというピアニストが、ジャズの帝王と呼ばれた亡きマイルス・デイヴィスに捧げたアルバムがある。Bye Bye Blackbird というアルバムだ。出だしは軽妙なタイトルトラックのテーマから始まるが、ソロに入るととたんに緊張感を帯びはじめ、キース・ジャレットならではの即興演奏が聴けるアルバムだが、特に印象的なのが、2曲目 You won't forget me だ。
はじめてこの演奏を聴いたときは、「氷のように冷たい演奏だ」と思った。2度目に聴いたときは、冷たさと同時に何か肉感的な熱さのようなものを感じた。デリケートなタッチながら独特なリズム感でたたみかけるフレーズと張りつめた空気は、即興演奏でなければ生まれようのないものだと思う。

大学生のころ、即興性の高いジャズという音楽に興味を持った。もともとエレクトリックギターを弾いていた私は、どうやったらギターですごい即興演奏ができるのか、低レベルながらも自分なりに考えたり、練習に没頭した時期があった。即興演奏というのは言うまでもなく、その場でメロディを考えながら同時に演奏しなければならない。集中力と緊張感が要求される。もともと大した音楽的素養のない自分にとっては、本当にショボいメロディを紡ぎ出すだけのためにすごいエネルギーを消耗する。
自分の低レベルの演奏はともかく、即興演奏の面白さというものが、「音楽」の面白さと言えるのかどうか、という疑問は常に感じていた。考えようによっては、音楽の面白さというよりは、スポーツの試合や、格闘技の真剣勝負を見る時に感じるスリルのほうがむしろ近いのかもしれないとも思った。

しかし、キース・ジャレットのプレイを聴くと、そこには確実に芸術として昇華された即興演奏がある。かつてマイルス・ディヴィスのグループに所属し、エレクトリックマイルスと呼ばれた時代の中でも一番ファンキーだった時期に、混沌とした暗黒世界をマイルスとともにつくり上げていたキース・ジャレットが、そのマイルスに捧げたトリビュートアルバムで、これほど美しいメロディを聴かせるというのもまた印象的だ。
それは、マイルスのトランペットが、どんなにファンキーな、あるいはアヴァンギャルドなフォーマットの上でも、常に美しく響いていたことと関連があるのかもしれない。

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