シーズン前半には予想もしなかったハミルトンにとっての余裕の展開だが、実際には決して楽ではなかっただろう。今年のメルセデスのマシンは特性がポインティで、コースによって速かったりそうでなかったりの差がある。そしてチームメイトのボッタスがしばしば苦戦していることでもそのセッティングの難しさが推測できる。
それでも今回のメキシコ、その後ブラジル、最終戦アブダビを残してハミルトンに心の平安があるのには、いくつかの要因がある。
まずフェラーリのベッテルがシーズン終盤に入って足踏みしたこと。昨シーズンを思い起こすとシーズン前半にハミルトンには不運が続き、最終戦までチャンピオンが決まらず結局ニコ・ロズベルグにタイトルを奪われた、そういう去年の状況とは大きく違う状況になっている。
王座目前のハミルトン。強さの秘訣は”ロズベルグの離脱と菜食主義”?
今シーズン、ロズベルグがいないことは大きかった。ナイスガイの印象だったロズベルグに対比して何かと批判されることも多いハミルトンのふるまいは、繊細さの裏返しと解釈すべきだろう。
ハミルトンにとってアイドルであるアイルトン・セナに近いものがある。
ブラジル人のセナ、いっぽうハミルトンは半分アフリカの血筋をもっている。純粋なヨーロッパ人とは違った心象風景をもっているだろうし、苦労もしている。バックグラウンドからくるハングリーさと、けた外れの繊細さが同居しているところが、セナと共通している。
かつてホンダF-1チームの監督であり、セナとともに一時代を築いた桜井淑敏は、対談集「セナ」の中にこんな言葉を残している。
「人間というのは、タイトな状態に入ってくると、心の中に潜んでいる思わぬ部分が出てくる。人間というのはギリギリではない状態では、基本的にはみんないい人なんだよ。ようするにギリギリになった時にとる行為が、本当のその人の行為でね。だから、ギリギリの時にどう行為をとるかというのを、そこを何とか探ろうとしていたということなんだ。」
政治的なパワーゲームが展開するF-1の世界で生きていくために、セナは桜井と情報を共有しつつ人間分析をしていた。
セナにとってそういう桜井が必要だったように、ハミルトンが「いい人」の状態でいい結果を出すには、理解者が必要だし、心の平安が必要なのだろう。
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