ジャズの即興演奏のすごさを感じさせるミュージシャンといえば、少なくとも今生きている人の中では、私の知る限りではピアニストのキース・ジャレットではないかと思う。
ソロ・ピアノでの即興演奏。譬えようもなく美しいメロディ、タッチ、でもそれを凌駕するインプロヴィゼーションの凄みを感じとらなければ、この音楽を聴く意味はない。キース・ジャレットのメロディが美しいのは、絵画でいえば抽象的なキュビズムで有名なピカソが、実は幼いころからデッサンが異常にうまいのと事情が似ているかもしれない。しかし、キースのメロディ、ピカソのデッサンはそれぞれの真骨頂を発揮するための「ツール」に過ぎないのだと言ってしまうと、言いすぎだろうか。
この曲をはじめて聴いた時は、氷のように冷たい音だと思った。2回目に聴いた時は、カッと燃える炎のように熱いと思った。亡くなったジャズの帝王、マイルス・デイビスへのトリビュート。
マイルス・デイビスはボクシング好きで、自分でもやっていた。フットワークを刻みながら、攻撃の機会をうかがうボクサーの動きを連想させるインタープレイは、1960年代の黄金期のカルテットで最もよく聴かれた。かつてマイルスのエレクトリックグループにも参加したキースによるマイルスへのトリビュートは、キースらしく内面でインスピレーションを絞り出すための静かな格闘だ。
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